過去は未来に復讐する





00-prologue

 夕闇に、街ごと呑み込まれそうな黄昏時。女が一人、背の高いビルの玄関から出てくる。すると、一歩も行かぬうちにその視界の端に男の背中が入り込んだ。素早く走り去る姿の不振さに女はしばらくその背中を追いかけていたが、あっと言う間に角を曲がりきりその姿は見えなくなってしまった。あとには余韻も残らない静けさだけがある。
 一見そう年がいった風ではないその男はここの職員ではないようだったが、女は男を知っていた。知り合いではないが、名前と顔が何とか一致するほどには見知っている。そして、女にはなぜ男がこんな場所にいるのかわからなかった。男がここに用があるとしたら・・・・・・そこで一つだけ思い当たった。なるほど。それならここにいるのも頷けないではない。
 そうすると、今度は先ほどの挙動不審な態度が気にかかる。いい年をした成人男性が、訪れたビルから追われもしないのに走り去る理由とは何だ?
 するとまた、女の視界の端に何かが映りこむ。首を巡らせて玄関脇に落ちたそれを見る。
ゆっくりと顔を近づけていくと、あるポイントで突然焦点が合い、それが何かが読みとれた。その瞬間、女の頭の中で全ての事象が矛盾なく一つに組み合う音がした。
 ─なるほど、そういうわけね。
 女は一人で納得すると、今度こそ往来へ歩き出していった。
 












 「実際、少数派グループの中でもっとも過酷な差別を受けているのは、同性愛者だろう。いまだに笑い物にしても許されていると思われているマイノリティは、同性愛者ぐらいなものだ。」

─森奈津子「実験台のエレベータ─カミングアウトのお作法とは?」















01

 「知ってるか?」
 あのさ、顔が怖いよ。
 僕がそう言うと、御剣はますます表情を堅くして身を乗り出してきた。
 ここはどこかと言えば裁判所近くのレストランで、突然「昼食でも」とお呼びがかかったのでノコノコやってきた訳なのだが、注文前からこれでは飯がまずくなること請け合いである。
 早くもおかしな雰囲気に呑み込まれそうだが、おかしいと言えばおかしいことはまだあって、急な誘いに渋っていたぼくを、御剣はわざわざ奢ると言って無理矢理連れ出したのだ。友人に奢ってまで話さなければならないような用件に心当たりはない。そう言った。
 「真面目な話だ」
 「それってどのくらい」
 「緊急度は高いと言える。」
 「なんだそれ」
 「聞け。黙って」
 そして、御剣は何がしか告げようとした。
 ・・・告げようとはしたが口をついて出すのが至上の不幸、と顔に浮かべたまま止めてしまった。
 そのままうつむいて考え込んでしまった御剣を、急かすような真似はしなかった。もう十二分に嫌な予感はしていたのだ。
 それでも御剣の方は意を決してしまったようで、ようやく喋ろうと口を開いた。
 「噂だ」
 「・・・・・・なんだって?」
 「裁判所の職員だの、検事局・警察局の関係者だのの間にかなり蔓延しているようだ」
 「それは・・・けっこう広範囲だな」
 場を和まそうと、なけなしの努力で笑ってみせる。
 「君は、笑っている場合ではない」
 「やっぱり・・・僕の噂なのか」
 「正確には・・・君と私の、ということになる」
 なんでだか、一人の時より俄然悪くなったような気がした。しかし、ここまで来て聞かないわけにも行かない。御剣はどうぞの合図も待たずに口火を切った。
 ・・・・・・ところで、何がいけなかったのだろう。その店に見知った顔がいないか確認を怠ったことか?それとも話を持ちかけようとした御剣か?話を止めなっかったぼくか?
 なんにせよ、御剣は最悪のタイミングで口を開いた。
 「ちょ、ちょっと、御剣検事とっ、成歩堂弁護士っ、てっ、付き合ってるんだってぇっ!!」
 誰にも聞かれることはなかったが。





02

 顛末だけとりあえず話すなら、僕らは飲みかけのコーヒーもそこそこに、逃亡犯のような足取りでその店をあとにした。幸か不幸か先程の女性たちに見つかることはなかったが、行き場をなくした僕らは、僕の事務所に駆け込みようやく・・・ようやくなんとか膠着する事が出来たのだった。
 「・・・なんで・・・・・・」
 「・・・さあ、な・・・・・・」
 「どうしたの」
 一人分多い声にそろって振り向く。
 真宵ちゃんである。
 「お昼を一緒にだなんて、女子中学生じゃあるまいし・・・とか思ってたんだけど」
 幼顔の助手は気にせず続けることにしたようだ。
 「結局連れて来ちゃったの。このあとのお仕事は?」
 「そうだよ、お前仕事は?暇ってこと無いだろ。かえれよ」
 こいつさえ居なくなれば問題は当座のところ据え置きだ。早々にお帰り願おう。出来ればお互いそのまま忘れてしまいたい類の話なんだし。
 しかし彼はそんな心情を汲んではくれなかった。
 「仕事どころではない」
 公務員のセリフではない。
 「もー」
 脳天気な彼女もさすがに腹持ちならないといった顔で僕らを見上げてくる。
 僕もかよ。
 「なんなんです、さっきから」
 「や、その・・・・・・」
 おいおいおいおい御剣こっちを見るな。
 当然僕にも何も言えない。
 すると、二人示し合わせて黙っているのが気に食わなかったようで、頬を膨らまし眉をつり上げ怒りを顕に睨んできた。別に怖くはないのだが。
 とか、油断したのが不味かった。
 「お熱い二人の秘密って言うんなら聞けませんね。真っ昼間っからいちゃいちゃしてて、後ろから刺されても知りませんからね」
 静寂。
 沈黙の世界。
 その場の、空気と言うより時間が凍りついたかのようだった。
 「え」
 と、聞かれてもどうとも答えようがない。
 「え、ひょっとし、て、その」
 彼女の口より先に僕の体が動いたのは、最後の救いだった。
 「ほん、とにその、付っぐふっ、もがっ」
 おかげで、僕は最後の最後で彼女を止められたのだった。
 それでも、疑惑を顔に張り付かせたままの真宵ちゃんはこちらを振り仰いで来る。
 事情を話してもいいか、と御剣に目で訪ねると、その瞳にはどこか遠くが映り込んでいた。
 嘆息。
 




03

 「くっくくくっく」
 笑い事じゃあない。と、誰かの受け売りでたしなめてみるが、どうにも力の入りようがない。
 「おもしろい・・・。今年一番だね・・・!・・・くくくくっ」
 無責任この上ない。
 「あー笑ったぁ。でも、何で今更そんな話が出てるんだろ。ん?いや、とうとう?」
 言ってやりたいことは山ほどあるが、言葉にならないまま散ってしまった。
 「とりあえず、建設的な善後策を考えよう」
 「なんの善後策?」
 「この噂の収拾だよ。そのうち仕事にも影響が出るぞ」
 「いいんじゃないの?人の噂も何とやらって」
 「二月半も付き合ってられるか!こんな・・・趣味の悪い話に・・・」
 「ゲイだって噂がなんだって言うのかなあ。もう2017年なんだよ?」
 ダンッ。
 というのは後ろで机を叩く音だった。
 「ゲイでは・・・ない・・・」
 可哀想なまでに背を丸めて御剣が言った。
 「犯人はみんなそう言いますね」
 「”俺はやってない”だろ」
「どこが違うって言うの!」
 顔を上げてみればなにやら真面目な顔をして睨んでくる。
 「男といえばセクシュアリティの違いを受け入れられないでうじうじうじうじ・・・・。やれオカマが気持ち悪いの、やれホモは非生産的だの、レズは綺麗だからいいだの・・・・・・うるさい!ヘテロの男がそんなに立派か!ええ!?」
 呆然と眺めていると背中にやっぱり視線を感じて振り返る。御剣だ。すがるような目でこちらを見てくるので、隣まで歩いていって腰掛けた。
 「彼女は・・・反ホモフォビア活動家なのか・・・?」
 「さてね。しかし彼女がこの際あんまり役に立たないことは分かったみたいだね。僕らが彼女よりも先にこの話を掴んでよかったよ。祝福されかねないからね」
 「してあげようか」
 「遠慮しておくよ」
 そこで立とうと軽く腰を浮かせた。足下に目をやった瞬間、
 ッパァーンッ!
 「わっ!」
 「きゃぁっ」
 あわてて後ろを振り向いて、ドアからした音だったと気付く。どうやらパーティー用のクラッカーの破裂音だったようで、あたりに色とりどりのテープが散らかり、あろう事か火薬の匂いまでする。一体誰が片付けると思ってるんだ。てか誰だよ。
 そのサプライズを届けに来た人物は、周りの恐慌をよそにしずしずと近づいてきた。
 「二人ともおめでとう。でも、少し水くさいんじゃないかしら」
 久しぶりの客人は微笑んで言った。
 「結婚おめでとう」
 




04

 「まず一つ。日本では同性間の結婚はできない」
 ここに来てからめっきり老け込んだ御剣は、招かれざる客に一つづつ言い聞かせていた。身だしなみに気を使う彼だが、今この時ばかりは白髪の二三本は見つけられそうである。
 「そうだったかしら」
 「そんなんでよくこっちで検事が勤まりましたねえ」
 何を今更という向きもおられようが、招かれざる客というのは狩魔冥のことだ。
 何で日本に、と聞くと仕事でたまたま出てきたのだそうだ。なぜ、こんなタイミングにね。
 「第二に」
 頭痛でもするのか、さっきから片手でこめかみを揉んでいる。気持ちは分かる。
 「なんで私とアレなんだ」
 アレってのは僕のことか。
 「聞いたのよ」
 「一体どこで」
 「検事局・・・警察署でも聞いたわね。」
 御剣は頭を抱えて黙り込んでしまった。もっとも、僕としては自分の職場ならもっとさっさと気付けと言いたいが。
 「誰から?」
 仕方なく尋問役を代わる。何だか貧乏くじはすべて自分に回ってくるような気がしてきた。
 「顔見知りの女子職員よ」
 「全然聞きたくはないんだけど・・・なんて言ってたの?」
 「あなたとレイジの噂を知っているか、って言われたの。聞きたがっていたのは向こうだったんだけれど、私が生憎なんのことだか分からないって言ったら、ついに二人が落ち着くそうだ、って言われたの。検事局で一回、警察署で二回、ね」
 「ばっ」
 気がつくと、痙攣的に声が出ていた。
 「馬鹿ばっかりかっ、この国の公務員はっ!」
 試しに振り向いてみると、その公務員は頭を抱えてへたりこんでいた。
 「たかが噂の一つや二つで全国の役人に喧嘩を売らないでほしいわね」
 「や、やけに肩を持つじゃないか」
 「そりゃそうよ。私なんて結婚のお祝いまで注文してしまったのよ」
 「そういうことは本人に確認してからの方がいいね・・・」
 「まったくだわ」
 「いったい・・・・・・」
 口を挟んできたのは真宵ちゃんだ。
 「何が発端なんでしょうね」
 「そうだ。すべての物事にはみんな原因があるんだよ」
 真宵ちゃんはそのまま御剣の方を向いた。
 「なにか、その、心当たりとかは?」
 「な、何で私が」
 「そりゃ、当事者は二人しかいないですし」
 「根も葉もない噂の原因を本人に聞いてもしようがないだろう」
 「火のないところに・・・とも言うわね」
 気が・・・遠くなる。
 そんな僕を見て真宵ちゃんが重たそうに立ち上がった。
 「しょうがない」
 そのまま眼を閉じた。
 「これだけは使いたくなかった」




05

 抑えきれないニヤニヤ顔で、
 「ふうん」
 と言ったのは、紛れもない僕の師匠、千尋さんである。今いるこの部屋で命を落としたはずの彼女は、生きている情けない人間たちに対して、あまりにも頼もしかった。ちなみに、真宵ちゃんが彼女を呼びたくなかった理由というのは、自分が事の次第を見ていられないからだそうである。現金なヤツ・・・。
 「おい」、と御剣に耳打ちする。
 「お前、信じないんじゃないのか、真宵ちゃんの霊媒」
 「大丈夫だ。今、この状況を受け入れてないからな」
 どうかしているんじゃないかね、こいつ。
 「私はしばらくこっちに来てないから分からないんだけれど。このところ特に目立った事件やハプニングがあったわけではないのね?」
 「ないです」
 「どうかしら。本人たちには分からないっていうだけかも」
 「ないと思いたいです」
 彼女の目がきゅっと細くなった。こわい。
 「それじゃ堂々巡りだわ」
 と、助け船を出してくれたのは、意外なことに狩魔冥だった。
 「ここ一月ほどのあなた達の行動を検証してみる必要があるわね」
 「一月って・・・」
 まてよ、一月?
 「どうやら噂の根幹には”一ヶ月前の出来事”というのがあるらしいの。でも、それが何かってことになると、みんなよく知らないようだったわ」
 一月前にあった、事件とも言えない些細な何か。
 喉まで出かかっている、このもどかしい感じ。分かりそうで分からない・・・。ただ、今度もまたひどく嫌な予感がする。何かバレてはいけないことなのではなかったか?ひょっとして今、ヤバイんじゃない?
 「それもくだらない噂だよ」
 「あら」
 彼女は含むような笑みを浮かべてから、「”すべての物事には原因がある”んでしょう?これは検証できる唯一の証言だわ」と、敏腕検事の名にふさわしい楽しげな声を出した。
 どうやら、真実の前に臆している僕とは対称的に、彼女はこの件に偉くヤル気を出しているようだ。
 どういうわけだ。
 僕の視線に気付いたのか、彼女は顔を上げた。
 「私の説を言わせてもらうわ。ちなみに、この通りならばいかな矛盾も発生しないし、証明終了の判が押せる。そういう仮説よ」
 「あら」
 興味を示したのは千尋さんだった。
 「面白そうだわ」
 御剣はといえば、相変わらず渋い顔でこちらを見ていた。さっきより、皺が一本増えたような気がする。何か彼女の告白の検討でもついていると言いたげな顔だった。まあ、ただ疲弊しきって顔面が動かないだけなのだろうが。
 僕に至っては、自身ですらとるに足らないことだと片付けた記憶を探り続けるのに忙しく、彼女のセリフをさほどの興味もなく聞いていた。
 「つまりこう」
 登場人物を集めて種明かしをする名探偵のようなもったいをつけて彼女は言った。そして、つけくわえるならば、その瞬間僕はすべてを思い出した。思い出してしまった。
 「二人は本当に愛し合っている」
 




06

 「却下ぁ!コラァッ」
 「なるほどくん、声が大きいわ」
 今は亡き師匠に言われては黙るしかない。
 その師匠はうんうんと頷いて、「その通りだわ」
 「二人は周りには内緒で交際を始めた。恐らくそれが一ヶ月前」
 「しかし周りで噂になってしまい、隠蔽のために奔走している・・・筋は、通るわ」
 「証拠がない・・・!」
 ずいぶん久しぶりに御剣が声を荒げた。
 「それはそうね」
 おっとりと狩魔冥が返す。
 「でも、一般的な男女交際でも物的証拠を得るのは難しい。推測で推し量ることしかできないこともある。そして今回、状況証拠を探すのはそれほど難しくはない・・・」
 「推測でホモにさせられてたまるかっ。そんな”犯人は主人公”みたいなオチでいいのかよ!」
 「落ち着きなさい。・・・話にならないわ」
 「話にならないのはそっちだって!そんな噂こんな状況で信じられるか?普通」
 「今のところその事実を否定する材料はないわ。当事者でない私が一方的にあなたの言い分を聞き入れるわけにもいかないのよ」
 「しょうがないだろ、僕はそれが嘘だって知ってるんだから!」
 「・・・・・・なるほどくん」
 見れば、千尋さんがいつの間にか立ち上がっていた。
 「ダメじでしょ、話し合いは熱くなった方の負けなんだから」
 そこまで言われて、ようやく頭に血が昇っていることに気付いた。意識すると、昇ったままだった血は、そのまま全身へとゆっくりと下りてきた。なんだかきまりが悪くなってチラと狩魔冥を見ると、涼しげな笑みで返された。うう、腹立つ。
 「幸か不幸かわたしたちは弁護士と検事」
 完全にメンバーは割れているが。
 「検証してみましょう。この、噂の真偽について」
 「いいでしょう。・・・それしか方法はないようだ」
 すべてを思い出してしまったぼくとしては断固避けたい展開だった。・・・しかし、御剣まで乗ってしまった以上、 ぼくに出来るのは永遠にしらばくれること、しかないようだ。たとえ、永遠なんてものがないのだとしても。




07

 「で、”一月前の出来事”に心当たりは?」
 「何だっていいだろ」
 一斉に全員が振り向いた。しまった。
 「って、ちょっと待ってよ」
 狩魔冥は眉根を寄せて振り向いた。
 「何だってレイジまで驚くのよ」
 「私も知らないからだ」
 それを聞いて彼女は若干がっかりしたようで、少し眼をうつむかせたが、また顔を上げてこちらを見た。
 「驚いたわね。本当に何かあったの」
 「御剣が知らないんだし、僕の個人的なことだよ」
 そうね、と言って彼女は興味を失ったようだったが、こちらは内心気が気でない。なにせこの場の一人でも”あのこと”に気付いたら僕らは圧倒的不利におかれるのだ。この場の一人とは御剣も例外ではない。
 「ううん、一月前はどんな仕事をしてたの?」
 言われて御剣が手帳を取り出す。よく使い込まれた皮のカバーが嫌みにならない程度の輝きを放っている。
 「一つ・・・片づいた仕事があるな。ちょうど」
 「相手は・・・?つまり・・・担当した弁護士は?」
 こいつか、と指差される。
 対して御剣は首を振った。
 「君らの知らんような・・・まあ小物だな」
 「ああ・・・勝ったのね」
 「かなり拘束されていたからな。・・・・・・事件の間しばらく成歩堂とは会っていない。・・・いや、今日の食事はそれ以来だ」
 これで満足か?という表情で御剣が目を閉じた。
 「なるほどくんは?さっき思い当たったことでもいいのよ」
 「だ」
 絞り出すような声になってしまっている。
 「だから、プライベートなんです、それは。関係ないでしょう」
 「なにを・・・・・・」
 久しぶりに師匠の声が獲物を─そうとしか言えまい─尋問する声に変わるのを聞いた。
 「隠しているのかしら・・・?」
 今や場の注目はすっかりぼくに集まっていた。まんまと俎上に載せられてしまったのだ。御剣はぼくが何の合図もしてこないのを見て、こらえるような顔で押し黙った。
 「どうやらあなただけが知っているのね、成歩堂龍一」
 「言う必要のないことを黙っているだけだよ」
 「ふうん」
 「その、ひとつき前の出来事は今回の出来事と関係のないことだった・・・・それは確か?」
 「そ、そうです。だから黙ってるんです」
 すると、千尋さんはぼくをじろじろ眺めてから静かに「嘘ね」と呟く。
 「な、何を根拠に・・・!」
 「わからない?」
 千尋さんが微笑む。
 「見えるのよ、私には、ね」
 サイコ・ロックの錠が脳裏を駆けめぐる。まさか・・・嘘が見える・・・・のか?元々才能ある霊媒師であったと言うし、霊となった今そんなものが見えていても不思議ではないかもしれない。そう、あの勾玉のように。
 「御剣検事の一月前の仕事と関係がある・・・とか」
 顔がさっと青ざめるのが自分でもわかる。
 「そんなことまで・・・!」
 「そうよ、今の私にはわかってしまうの。だから・・・さあ」
 千尋さんは菩薩のような寛大な微笑みを見せて、それでもぼくの目から瞳をそらさない。
 「言ってごらんなさい」
 もし、彼女に事のすべてが見えているなら、今なお無理に取り繕うとする自分の様は滑稽なだけだ。・・・言ってしまった方がいいのかも知れない。そう思って口が開きかけた。その瞬間。
 「待て、成歩堂」
 振り返って見れば、御剣が険しい顔をして立ち上がっている。
 「それは多分、嘘だ」
 ・・・・・・何を言っているのだろう、あいつは。あいつは霊媒を信じてないからそんなことが言えるのだ。そう思ってまた顔を元に戻すと正面で千尋さんが「ちっ」と舌打ちを打っていた。
 「あのお・・・」
 「やっぱり答えを急いじゃダメね」
 「・・・嘘、だったんですね。別に、そんなもの見えないんですね」
 「それは、保留にしておくわ。なるほどくんたら、尋問する方はともかく、されるほうはちょっとひどいわね」
 また視線をずらせば狩魔冥も獲物を取り逃がした顔で悔しそうにしている。どうやら、こんなチープなトラップに引っかかってしまったのはぼくだけのようだ。
 「レイジだって、知りたくないわけじゃないでしょう?真実を」
 すると、御剣は敵意をあらわに狩魔冥を睨んだ。無理矢理ぼくの口を割らせたところで自分の不利になることに変わりはないと言う主張のようだ。そこで今更ながら御剣とぼくが共同戦線を張っている味方なのだということを思い出した。
 千尋さんは、ふうとため息をついて思案を巡らせているようだ。
 「でも、まあそれこそあなたの仕事と関係があることがわかったわ。今度こそ心当たりは?」
 御剣検事、という言葉に、御剣は相変わらず困惑を隠しきれないようだった。よし、それでいい。と心の中で呟く。御剣が何か知っているわけはないのだ。
 しかし狩魔名は諦めきれないらしく、何か引き出せないかと仕掛けてくる。
 「勝訴のお祝いで相手の家に行った・・・・・・どう?」
 ぼくは首を振る。もうその手には乗らない。何より、事実とはかけ離れた問いだ。・・・・・・”一月前のできごと”はそんなことではないのだ。
 それでも二人は、間抜けなぼくから手に入れた新しい証言を大きな一歩だと感じているらしい。しかし、時間か証拠品のどちらかが豊富にあるような状況ならともかく、明らかにその片方、証拠品はまるっきりない。時間にしたって、今この場を仕切っている千尋さんは霊媒されている身なのだ。そう何時間もこんな審理にに付き合っているわけにも行かないだろう。そうすれば・・・・・・。
 そこでハタ、と気付いてしまった。むこうに時間がないなどと言うのはただの勘違いだ。このまま時間がたって千尋さんがいなくなれば確実にむこうにわたる証言があるのだ。審理をそこまで続けさせてはいけない。・・・しかし・・・どうやって?
 そうして居る間に、千尋さんと狩魔冥はなにやら話し込んでいる。
 「もう、真宵を呼んで聞いてみようかしら」
 「ま、待ってください!」
 「え?」
 「なに、真宵を呼ばれたら困るのかしら、なるほどくん?」
 「え、いや、その」
 「どうしたの?」
 「・・・・・・」
 「え、なに?」
 「この手だけは・・・使いたくなかった」
 「え」
 一秒後、ぼくの耳に「にげた」という声が飛び込んできた。ぼくは必死で走りながら「敵前逃亡もまた戦術である」と心の中で唱え続けていた。階段の下で息を整えながら立ち止まると、猛然とした勢いで何かが駆け下りてきた。御剣だ。
 「あの場に、一人で、置いていく気か!」
 まあね、と言おうとしたが出てきたのは乾いたセキだけだった。
 「答えてもらおうか」
 「何を」
 半ば投げやりに答える。
 「決まっている」
 そこまで言って御剣は息を吸った。
 「その、すべての発端である事実に関してだ」
 そこで再び、ぼくはゆっくりと過去へ思いをめぐらせた。
 




08

 「えーっ、御剣検事、来れないんですかあ?」
 電話口で残念がる真宵ちゃんに、向こうからはすまなそうに謝り続ける御剣の声がかすかに聞こえてくる。そういえば、この前会ったときも忙しそうにして、しばらく片づきそうにもないと言っていた。長くかかる仕事なのだろう。電話の方は、最後に真宵ちゃんが「いいんですよ」と言って切った。それからこっちを向いて、「御剣検事、一緒にご飯食べにいけないんだって」と肩をすくめて言った。
 「仕方ないよ。そういうこともあるって」ここは自分がなだめなければならないのだろう、と思っていかにも保護者らしいセリフで返す。が、ぼくだってそれなりに残念だ。
 「でも、二週間も前から一緒に行こうって言ってたじゃない。それが、三日前にいきなりキャンセルだなんて、ひどいよね」
 拳を握りしめて力説されては、「ま、ちょっと急だね」なんて相槌を返すほかない。
 「お店を決めたのも御剣検事じゃない。連れてってくれるって言ってたのに」
 「そうだったね」
 「お仕事が片づいてたら、祝勝会にしてもいいよね、なんて思ってたのに。なによ、終わってないじゃない!」
 「う、うん・・・・・・まあね」
 「本当に御剣検事って、無責任だし、いいかげんで、・・・・・・あ、あとほら、不器用だし、」
 「・・・・・・そこまで言ってやらなくてもいいんじゃない?」
 すると、真宵ちゃんの眼ぱちくりと瞬いた。
 「いいの?」
 「いいも何も・・・・・・言い過ぎじゃない?」
 「なるほどくんが落ち込んでると思って御剣検事の悪口を並べてみたんだけど」
 ・・・・・・なだめられているのはこっちだった。
 「まあ・・・・・・次の機会もあるよ。生きてりゃさ」
 真宵ちゃんは、「うーん」と気の乗らない返事をしたが、実のところぼくは自分に言い聞かせていたのかも知れなかった。
 




09

 「えーっ、御剣検事、勝ったんですかーっ?おめでとうございます!さすがあたしの敬愛する御剣検事ですっ」
 電話口で喜び跳ねる真宵ちゃんに、照れくさそうに返事する御剣の声が聞き取れた。
 「あっ、そうだっ、なるほどくん!なるほどくんに代わりますか?いま、いるんですよっ」
 はい、と受話器を渡されるが、いいよと押し戻す。自分が微塵も携わっていない勝利になんと言ったらいいのかよくわからない。「おめでとう」ではあんまり間抜けだと思う。
 真宵ちゃんはそれでももう一度渡そうとしてきたが、電話からの「いや、いい」という声を聞いてまた自分が会話に戻っていった。向こうも同じことを考えていたのか、と思ったが同時に自分のことを棚に上げて失礼なやつだと思った。
 しばらく二人が雑談を続けるのを聞いていたが、それも片手間に仕事をしているうちに終わっていたようだ。
真宵ちゃんは受話器を置いてしばらく何か考えていた。それからこっちを向いて、「さて」と言いながら近づいてきた。
 「じゃあケーキ買ってきて」  
 「は?」
 「ケーキだよ。イチゴののったやつ」
 「は、話しが読めないんだけど」
 「お祝いといったらケーキでしょ!つべこべ言わずに買ってくるの!チョコレートの文字は”victory”ね」
 そのセンスはどうなんだろう。
 「何、御剣来るの?今日」
 「ううん。まだ忙しいんだって」
 「じゃ、なんで」
 「届けに行くんだよ。検事局まで」
 「・・・ケーキを?なんでそこまで・・・・・・」
 御剣が裁判で勝利を収めることなんてそう珍しくもない。その逆の方が遙かに珍しいくらいだ。何で今日に限ってそこまでしなければならないのか?
 すると真宵ちゃんは、ぺろっと舌を出して「こないだ、悪口いっぱい言ったからね」と呟く。そんなの御剣が知っているわけもないだろう、と思ったが真宵ちゃんの気持ちの問題なのかも知れない。
 「わかったよ」
 上着と財布を引っぱり出して埃をはらう。
 「一緒にいこ。好きなの選んでいいから」
 と、真宵ちゃんを見ると、時計を見て固まっていた。
 「どうしたの」
 「郵便局・・・閉まっちゃう!早く行かなきゃ・・・」
 「え、ケ、ケーキは?」
 「あー・・・先に行ってて!定時すぎて外の人が入ったら変じゃない?」
 「真宵ちゃんはどうするのさ!」
 「あとで残ったとこもらえればいいよ。じゃ、行ってくるね!」
 男二人でケーキを食いながら何を話せというのだろう。そう考えているうちに、真宵ちゃんは鉄砲玉のように飛び出していった。





10

 「いらっしゃいませぇ。どうぞごゆっくりお選びくださぁい」
 ずいぶん久しぶりに見るファンシーな色の洪水に一瞬臆してしまうが、気を取り直してショーケースに目をやる。ショートケーキでいいか。イチゴののってるやつって言ってたし・・・。しかし、チョコレートの文字がどうとか言っていたのを思い出す。それはつまり、あの、お誕生日ケーキのてっぺんにこう、”ハッピーバースデーりゅういちくん”とか書いてあるやつのことだろうか。て、ことは。
 「お決まりになりましたかぁ?」
 目の合った売り子の女の子が声をかけてくる。
 「・・・ショートケーキ、ホールで。この、一番ちっちゃいやつ」
 こういうことだろう。ピース三つの方が安いのに。と、財布の悲鳴が聞こえた。
 「メッセージはおつけになりますかぁ?」
 ほらきた。しかし、ビクトリーと言って、「あのお、綴りはぁ」なんて言われた日には情けなさで顔から火が出るに違いない。やめだ。そもそもこのケーキは真宵ちゃんから御剣へと言う体裁だ。渡すときも真宵ちゃんからと言って渡せばいい。なら何かもっと真宵ちゃんらしいコメントをつければいいのだ。それらしい文句を考えて、ぼそぼそと文面を女の子に告げた。女の子はちょっとびっくりした顔をして、「はあ、ミツルギケンジ、どんな字でしょうかぁ?」と言ってきたので結局ぼくの繊細な配慮は何にもならなかった。
 「ひらがなでいいよ。名前は」
 はぁい、と声を上げて女の子は奥から道具や飾りのついたチョコを取り出して作業を始めた。なるほど、こういうのって売り子の子がやるんだ、などとぼんやりと思った。とろとろと話していた女の子がきびきびと作業をこなす様は見ていて何だか気持ちがいい。ぼくがえらんだ小さなショートケーキは流れるように箱に詰められ、作業の終わりを告げた。
 「あ、そうでした」
 女の子が箱の入った紙袋をぼくに渡しながら思い出したように言った。
 「ロウソクの方は?」
 「いらない」
 と言って、静かに戸を押した。
 ケーキ屋を出るとあとは検事局までの道をとぼとぼ歩くだけだ。第一級の壊れ物を運んでいる以上走ったりするわけには行かないのだし。
 近くにある大通りからはひっきりなしに車の音が響いてくる。ラッシュももうすぐだろう。
 夕方も近くなって、あたりはだんだん薄暗くなってきた。真宵ちゃんの「定時までに」という言葉を思い出し少し急ぎ始める。・・・が、待て。定時云々の前に検事局にケーキを持って入って行くのは・・・そっちの方が遙かにおかしくはないか?
 もう検事局が目の前に見えるところまで来た。深い影を背負った背の高いビルは何だか墓標のように見えないこともない。不意に、あのビルの中でケーキを持ったままエレベータ待ちをしている自分が好奇の目にさらされるのを想像して戦慄が走る。
 ─かえろかな。
 そう思うのと同時にあることに気付く。さっきからしていたエンジン音が実はもう目の前に来ている。この時間帯は、まだ明るいと思っていてもほんの少し経つだけで景色が変わってしまう。車は─無灯火だった。
 「わっ」
 気付かずにその目の前に立っていたぼくは、道のはしに倒れ込むようによける。車はそのまま走り去っていった。ぼくはそのまま見えなくなってからようやくのろのろと立ち上がって悪態をついた。
 ケガは無いかと全身を見下ろしている間にあることに気付く。ケーキはどこだ?
 だんだんと夕闇の迫り来るビルの谷間で眼を懲らすが、目的のものはまるで視界に入らない。もしかして逆の方向かもしれない、と検事局の方まで探す。と、見覚えのある白い袋が玄関脇に落ちている。ありがたいことに出入りする人間は居ないようだ。そのまま走って近づくと箱もケーキも中から飛び出していた。チョコレートのプレートは殆ど無傷で、売り子の女の子のことを思い出して涙が出そうになる。しかし仕方がない。こんな場所でケーキをひっくり返して打てる手はたった一つだ。つまり・・・。
 





11

 「どうしたんだ。それで」
 「逃げたんだよ」
 にげたあ、とかすれた声で言われても、事実なんだから仕方がない。
 「人の職場の前でケーキをひっくり返して、その、後片づけぐらいしたらどうなんだ」
 「往来でひっくり返したケーキを片付ける方法なんてあると思う?」
 「あるだろう。それは」
 それはそうかもしれないが、パニックを起こした人間はたいていそんな風には考えないものだ。
 「ま、それが”一月前の出来事”なんだよ。それだけ」
 「おかしいだろう」
 すかさずツッコミが入る。
 「なにが」
 「なぜそんなことを隠す」
 「おかしくないよ。これ、真宵ちゃんに知られたら大変だよ」
 「その真宵君は何も言わなかったのか?」
 「二人で全部食べちゃったってことにしたら怒ってたよ」
 「そこでばれなかったのか?」
 「かわりにドライアイスあげたら許してもらえた」
 「・・・・・・・」
 「おかげで事務所がスモーク焚いたみたいになってさ」
 御剣は静かに聞いていたが、やがて首を振った。
 「ちがうな」
 「・・・・・・なにが?」
 「まだ・・・隠していることがあるだろう。君が今さっき語り損ねたことだ」
 「今言った以上のことなんてないよ」
 「成歩堂・・・・・・私としてもちっとも聞きたくはないのだが・・・知らないでおけばロクなことにはならない。・・・話してもらおうか」
 「いったいぼくが何を黙ってるっての?一部始終、事細かに話したじゃないか」
 でも内心は御剣が話しの核を捕まえたことが嫌でもわかった。伊達に一緒に法廷に立ってはいない。
 御剣はゆっくりと核を握りしめていく。
 「チョコレートにはなんて書いた?」
 「・・・・・・忘れたよ」
 「だいたい想像はついているが・・・答えを知りたい」
 まっすぐに目を見られて、仕方なしに両手をあげる。仕方がない。ぼくは嘘を付くのが下手だった。それだけの話だ。
 「わかったよ。降参だ」
 「文面は?」
 「・・・・・・”敬愛する御剣検事へ”だ」
 「そして、売り子の女性が聞いてきた漢字は私の名前だけだった。つまり”敬愛”は漢字で書かれた」
 「その通り」
 「落としたあとのチョコレートは”ほとんど”無傷だった」
 「クリームが少し付いてたよ。割れたりはしてなかった」
 「・・・クリームが付いた位置は」
 「ご明察だよ。つまり・・・・・・」
 お互い答えはわかっていたはずだが、それでも言わずに済ますわけにはいかなかった。
 「”敬”の字が消えてたんだね」
 すぐに脱力した二人分のため息が場を支配した。
  





12

 「ひどい話ね」
 「うわぁっ」
 後ろから声をかけてきたのは千尋さんだった。
 「聞いてたんですか・・・?」
 「聞こえたのよ」
 今度はその隣にいた狩魔冥だ。
 「階段の上にいたら、たまたま」
 「ねえ」
 こんな話が本当だったら、きっとあの勾玉のようなアイテムは必要とされないだろう。そう思ったが黙っていた。
 「これから・・・どうしたらいいんでしょう」
 「え?」
 「え、”え?”じゃないです、そのために来たんでしょ、千尋さん」
 「そうだったかしら」
 「何しに来たんですか!」
 がしっと肩をつかまれる。
 「いい、なるほどくん。人の噂も七十五日と言うわ」
 「それ、さっき聞きました」
 「そして、噂としては最高峰のおもしろさだったわ。ありがとう」
 「あ、ありがとうって」
 「さて、私はもう帰ろうかしら」
 千尋さんは空を見上げてなにやら郷愁に浸った。
 「か、帰るんですか、しかも」
 「私もそろそろ帰ろうかしら。国へ」
 狩魔冥もなんでか空を見上げた。
 「君も何しに来たんだ一体・・・」
 御剣が眉間のしわを一層深くして呟いた。
 一方ぼくは必死で千尋さんに食い下がる。
 「真相を暴くだけ暴いてそのまま帰るっていうのは、その・・・弁護士としてどうなんですか!」
 千尋さんは静かに微笑んだままだったが、目元にはあなたもついに私に盾突くようになったのね、とでも言いたげな表情が浮かんでいる。うう、怖い。
 「良い考えがあるわ」
 と言ったのは狩魔冥だった。言わせてもらうが、今日の彼女の彼女の意見にロクなものは一つもなかった。どう考えてもこのまま彼女に発言させてはいけない。と、思ったが危機管理能力に著しく欠ける御剣が「・・・なんだ」と答えてしまったおかげで彼女は張り切って声を出した。
 「このまま付き合ってしまえばいいのよ!」
 「お前はそれしか言えんのか!」
 「なるほどくん」
 懐かしい声に振り向くと、千尋さんの出ていったあとの真宵ちゃんだった。千尋さんは哀れな僕らをおいてさっさと帰ってしまったようだ。
 「なるほどくん、こないだのケーキ・・・・・・転んでダメにしたってほんと・・・・・・?」
 ぎょっとしてよくよく見れば真宵ちゃんはなにやら紙切れを持っている。奪い取って見ると、千尋さんの字で事の次第が書かれた上に、末尾は「なるほどくん、真宵にケーキ食べさせてあげてね」で締めくくられていた。
 「それでそのまま結婚すればお祝いも無駄にならずにすむわ。方法は何がいい?養子縁組?証明証書?事実婚?海外移住なら、アメリカ、イタリア、イスラエル・・・」
 「なるほどくん、ケーキ!あたし、一度ワンホール食いしてみたかったんだ」
 「成歩堂、ちょっと頭痛がするんだが・・・・・・」
 「よく考えてご覧なさい、日本の結婚式で使われるウエディングケーキはとても巨大よ。ワンホールどころの話しではないわ」
 「ええっ!?じゃ、じゃああたし、許可しちゃおうかな、なるほどくんのケッコンっ」
 「寒気もする。・・・・・・病院に行った方がいいかもな。な。成歩堂。そう言ってくれ」
 ぼくはと言えば、ゆっくりと遠ざかる意識の中で”大団円”と言う言葉が意識にせり上がってくるのを必死に押さえていた。
 これのどこが大団円だと言うのか。いっぺん自分の無意識とじっくり語らわねばなるまい。そう思ったところでようやく意識は途切れた。





end


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